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最高裁判所第二小法廷 昭和28年(オ)1318号 判決 1956年4月27日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人永井貢の上告理由は別紙のとおりである。

原審の確定した事実は、先ず、被上告人恵美は昭和二五年三月一七日、被上告人石井は同年一二月三一日それぞれの所有名義の株券を訴外竹島証券株式会社にいずれも株式名義書換のための白紙委任状も処分承諾書も添付することなく「見せ株」として寄託したところ、訴外会社は上告会社に対する債務の担保として昭和二六年一月三一日右各株券に偽造の白紙委任状を添付してほしいままに上告会社に質入交付したというのである。右の如く株券に添付された名義書換のための白紙委任状が偽造のものである場合には、株券の交付をうけた者がたとえ善意無過失であつたとしても、株券の上に何等の権利をも取得するものではないことは、改正前の商法施行当時において、大審院が繰り返し判示して来たところであつて、商法の一部を改正する法律施行前になされた記名株式の移転については同施行法一一条本文により、その後新法が施行された後においても、なお旧法が適用されるのであるから、上告会社は本件株券の上に質権を取得するものではなく、被上告人等はこれがため、右株券につきなんらの権利をも喪失するものではないといわなければならない。次に原審は、上告会社は昭和二六年九月上旬訴外会社に対する債権の弁済に充当するため、本件株券を前記偽造の白紙委任状を添付したままで、訴外小畑耕章に売り渡し交付した事実を確定した。ところで改正商法は同年七月一日から施行されたものであつて、上告会社のなした右株券の譲渡はその施行の後にかかるから、その効力については新法を適用しなければならない。そしてこの点につき名義書換のための白紙委任状を添付してする記名株式の譲渡は、原判決の説示する如く改正された商法二〇五条一項の譲渡を証する書面の交付によつてなす記名株式の譲渡に該当するものというべく、同法二二九条の改正の結果、同法二〇五条の譲渡を証する書面が偽造のものであつても、なお、株券の善意取得者は保護せられるにいたつたものと解するのが相当であるから、小畑耕章は右株券を悪意又は重大な過失によつて取得した場合でない限り、本件株券によつて表彰される株式を取得し、株券返還の義務を負わないものと云わなければならない。そして原審は、同訴外人の右株券の取得については、悪意又は重大な過失があつた旨の主張立証がないとしたものである。されば被上告人等は、右譲渡の結果として本件株券の所有権を喪失したものであり、なお、原審は上告人の譲渡行為はその故意又は少くとも過失に基因するものと判断したのであるから、結局上告人は被上告人等の株券の所有権を違法に侵害したものとして、右株券の価格に相当する損害を賠償する義務があるというべく、これと趣旨を同じくする原判決は正当であつて、論旨は採用することができない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎 裁判官 池田克)

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